労働法や社会保険の分野では、「事業主」「使用者」「事業者」などの区別があり、法律等によりそれぞれ定義が異なります。使用者には安全配慮義務があることは前号で触れたところですが(労働契約法5条)、あらためて、「使用者」について解説します。
1.労働基準法の定め
労基法10条では、「この法律で使用者とは、
① 事業主
② 事業の経営担当者
③ その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」と定めています。労基法の使用者とは、事業主以外の者も含まれるということです。
労基法10条の「使用者」について、通達では、「本法各条の義務についての履行の責任者をいい、その認定は部長、課長等の形式にとらわれることなく各事業において、本法各条の義務について実質的に一定の権限を与えられている」者とし、「かかる権限が与えられておらず、単に上司の命令の伝達者にすぎぬ場合は使用者とはみなされない」(昭22・9・13発基17号)とされています。
また別の通達(昭63・3・14基発150号)では、出向の場合の使用者について、次のようにされています。
【在籍型出向の場合】
出向労働者については、出向元及び出向先の双方とそれぞれ労働契約関係がある。
出向元、出向先及び出向労働者三者間の取り決めによって定められた権限と責任に応じて出向元の使用者又は出向先の使用者が出向労働者について労働基準法における使用者としての責任を負う。
【移籍型出向の場合】
出向労働者については、出向先との間にのみ労働契約関係がある。
出向先についてのみ労働基準法等の適用がある。
2.労働契約法の定め
労契法2条2項では、「この法律において『使用者』とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう」と定めています。
労契法の「使用者」とは、「労働者」と相対する労働契約の締結当事者であり、「その使用する労働者に対して賃金を支払う者」をいうものです。
したがって、個人企業の場合はその企業主個人を、会社その他の法人組織の場合はその法人そのものをいうものです。これは、労基法10条の「事業主」に相当するものであり、労基法の「使用者」より狭い概念です。
3.その他法律の定め・判例など
最賃法2条では、「労基法10条に規定する使用者をいう」としています。
民法715条(使用者等の責任)では、「ある事業のために他人を使用する者」としています。
労組法7条(不当労働行為)の使用者について、判例(最三小判平7・2・28)においては、「一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいう」としつつ、「雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合」は、その限りにおいて、使用者に当たると解されています。労働法や社会保険の分野では、「事業主」「使用者」「事業者」などの区別があり、法律等によりそれぞれ定義が異なります。使用者には安全配慮義務があることは前号で触れたところですが(労働契約法5条)、あらためて、「使用者」について解説します。
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